点呼する惑星 平沢進  レビュー(と言えるものか?)

「点呼する惑星」/平沢進…まず、「平沢」は敬愛を込めた呼称であることをお断りしておきたい。単なる呼び捨てではないので。


 今回は精神的に落ちるところらしかったのを平沢の音楽で無理矢理引き上げられてちょっと寝込むw 音楽に当てられたのは久しぶりだ。
 今作は初めて平沢を聴きたいという人には勧めないが、今まで聴いてきた人にはかなり気持ちいい音だと思う。それだけの変化があったからだ。シンフォニックだが軽快だ。軽快といっても単に軽いわけではない。しかも今作はまさに捨て曲ナシ!前作の「白虎野」の完成度とは違ったベクトルで素晴らしい完成度だ。
 平沢によると(ほぼ同時に届いたファンクラブの会報にちょっとした曲紹介が載っていたので、私の解釈を補足してもらおう。)このアルバムの曲の幾つかは「不思議惑星キン・ザ・ザ」品質であるという。「キン・ザ・ザ」のサントラに使えるかが判断基準になっている曲もあるという。「キン・ザ・ザ」が何か解からない?旧ソ連の映画で、錆び付いた鉄の塊が空を飛んでいる良きSFだ。観終わった後、何ともいえない郷愁に似た感情を抱ける、古いSF小説が持つあの感覚も与えてくれる。近くのレンタル屋にあったら迷わず借りて観て欲しい。そしてそのお店の店長さんにも感謝して欲しい。ちなみに新居昭乃も好きと言っていた。
 また、シアトリカルなアルバムなので個々で物語を作れば良い、とも言っている。しかも、この曲順でストーリーを考える必要もないそうだ。
 巷では「BLUE LIMBO」「白虎野」に続く惑星3部作?といわれているし、タイトルから私もそう思ってた。つまりは、隠喩でデコレーションされた現在のこの惑星の歌かと。しかし、「点呼する惑星は情勢の話じゃないんだよ」と、…話半分に聞いておこうw

 曲の感想は全て私の解釈。まだまだ全く読み解けてはいない(その必要もないんだが)。平沢による展開図、拡大図も読まれることをお勧めする。(展開図、拡大図のリンクは私の解釈)
 最初のアルバム全体の感想といえば(音的には)「表立ったアジアンテイストの減少」「サーカスやショー、凄い大道芸」を想像した。歌詞に関しては解釈などせずに韻、言葉遊びなどを楽しむだけでも充分でもある。

1.Hard Landing(「Hard Landing」)…まさにショーが始まるといった風情。「Switched-On Bach」のような音からオーケストレーションが鳴り響く展開。悲哀のあるインスト。電子音が良いチープさを与えている。さて、幕があがるのは悲劇なのか?展開図10 拡大図10

2.点呼する惑星(「Planet Roll Call」)…寂れたサーカスのパレードのような音楽とともにゆっくりとショーが始まる。玩具のようなスネアが気持ちいい。いままでの平沢にはなかったヴォーカルタイプではないだろうか。ちょっとかったるいという感じだ。まぁ「点呼する惑星」はどうやら日に1000回も点呼する、管理されただるい星のようだから。
 「休まず描けよ与えたとおりの世界を」…まさにディストピア。しかし、今のこの世の中とどう違う?術を知らなければ与えられた情報で世界を知るしかない。展開図9 拡大図7

3.人体夜行(「Night Walking Wearing The Human Body」)…伸びやかな平沢の歌声だ。ティンパニーも軽快に行進しているかのよう。ブザーのようなSEが鳴り続けて曲に奇妙なイメージをつけている。メロディはどこか寂寥感がある。あまり抑揚がなく淡々としている。あるとすれば「Ha Ha Ha Ha」の部分のみか(エフェクトのせいか「ぱっぱっぱっぱっ」に聴こえるんだがw)。この笑いは何に向けて?サビも盛り上げない「寸止め」だ。
 英語タイトルのWearing The Human Body。歌詞にも「身体を着て立ち」とある。これは「身体は器」からきているという。しかもそれはこの詐欺的な世を生きぬくために必要な術としてとのこと。展開図7 拡大図6

4.Mirror GateMirror Gate(「Mirror Gate」)…ピアノが軽快なサウンドだ。晴れやかで伸びやかなBメロまでが終わるととたんにサビでシャウト!出し惜しみのギター!なんだこの急転直下!?最高だ!
 「”誰ぞや”と宙で声が 前途隠され」…シャウト!鏡像の門に倦怠の星からの脱出を阻まれた。与えられた世界より先には行けない。しかも行き先はきっと鏡に映った元の星だ。展開図3 拡大図3 

5.王道楽土(「Royal Road Paradise」)…これぞ平沢といえるまさに王道なシンフォニックな曲w 嘆くようなディレイ・ラマの人工コーラス。こんな哀愁のあるラマを聴いた事がないと言われる。ラマは色モノとしてしか扱われてこなかった。淡々としたA、Bメロから驚異的なサビの盛り上がり方とか!鳥肌!当の平沢はシンセいじってるうちに出来た最初の曲とか言ってるしw
 王道は「定番」のほうらしい。もっと解釈してしまうとこの場合「安易な」になるかな。「安易なパラダイス」。やはりディストピアの光景だ。ちょうど「華氏451度」を読んでいたので「火」という単語も意味深に感じる。展開図1 拡大図2

6.上空初期値(「Initial Value of Midair」)…プロペラの音があらわすように、飛行感のある軽快な曲。雲より高い高度を飛行しているような。平沢のヴォーカルも直球だ。平沢の曲にはこういう高地を想像させる曲が多々ある。これもそのひとつ。しかし、このアルバムではこういう曲の方が異端に感じる。
 これは「変幻する雲海」の唄だそうだ。歌詞通りといえば歌詞通りだ。「見よ錯視の霧は晴れ」「見よ隠し絵は解かれて」、雲とは何を指しているのか。雲が隠しているものは「真実」?展開図8 拡大図5

7.聖馬蹄形惑星の大詐欺師(「The Great Deceiver of Saint Horseshoe Planet」)…もう、とんでもない曲だ。このリズム(今作はティンパニーが素晴らしいな)、カッコよすぎるシャウトヴォイスのコラージュ、メロにばっちり乗っている皮肉たっぷりらしき歌詞、そしてアストロ(サーフ)サウンドなギター。まさにサーカスの出し物ののようにスピーディでスリル満点。「さぁ、この星で繰り広げられている詐欺のショーをご覧あれ!」かなw
 「地下鉄はカタコンベ」から「ドルで買ったカラシニコフ」まではテロのことを唄ってるとしか思えない。ディストピア小説のバックグラウンドには必ずといっていいほど隠された戦争が存在する。「Holy イェイイェイイェ」。この小バカにしたようなフレーズもたまらん!wあぁ、この曲は歌詞を全部書きたいくらいだ。「王は幼児Lonia」>Baby-Lonia>バビロニアなのだろうか。展開図5 拡大図4

8.可視海(「Visible Sea」)…ラジオボイスの平沢がゆったりと唄う。何かを思い出すように。ボトルネック奏法のギターが新鮮だ。このアルバムはギターサービスが多いw アストロサウンドなのはSF感(宇宙感)を出すためか。音も海というより宇宙だ。平沢のスローな曲には古いプログレの匂いがプンプンすると思うのは私だけだろうか。展開図2 拡大図8

9.Phonon Belt(「Phonon Belt」)…エンドロールのような曲だ。ミドルテンポで懐かしさを伴うメロディ。平沢のお得意ジャンルだ。サビも素直に綺麗。ショーは宇宙船の帰還で幕を閉じるのか。それとも置き去りにされてしまっているのか。この曲がラストならハッピーエンドとも取れるが。
 「旋律にキミを見せ」なんとも平沢な歌詞だ。音量子の帯に我を取り戻すことはできるのだろうか。展開図6 拡大図9

10.Astro-Ho!帰還(「Astro-Ho! Homing」)…キン・ザ・ザ品質。不安定なコラージュ・コーラスは少々恐いほど。やっとの思いで故郷の惑星に帰還したがそこにかつての景色は無かった。そこはやはり「点呼する惑星」?Astro-Ho!はまたチタンの枕を涙で濡らすのだろうか。この曲はストーリー的には冒頭にくるのかもしれない。
 「恐喝のエコロジー」…平沢はエナジーワークスから自宅のソーラー発電のみで曲を作って録音している。そしてプリウスにも乗っている。だがそれはエコロジーが動機ではない。エコロジーという言葉にはまだ企業の嫌な匂いしかしない。
 「Oh!ママ 明日は道理が通るの?Oh!パパ 希望はいつも明日なの?」…常に明日は良い日だとディストピアでは言われる。展開図4 拡大図1


 とりあえず私は「この惑星をディストピア的舞台とイメージした物語」を想像した。この星はすでに欺瞞で干からびる寸前なのだ。Astro-Ho!は勿論私たち聴いている側のことと考えた。


 平沢はとにかく私にとって特別な存在だ。
 まず音楽の要素。メロディは的確にツボをついてくる。P−MODELのときの平坦で無機質なものから、ソロの歌い上げるものまで。聴いたことのないフレーズで満たされている。
 そして歌詞。これは難解であるけどTVから流れてくるもののように単純に「愛だの恋だの」を唄ってないという点だけでも安心できる(ラブソングばかりのJ−POPは気持ちが悪すぎる)。しかもSF要素満載だ。何を唄っているかおぼろげながら理解できた時の嬉しさとか他では体験できない。しかも、「歌詞に意味なんてない」と言い放ったりもするw 9.11以降は世界情勢、それにまつわる情報の操作などをよく歌詞にしているが、それまでは人と人の関係(深層においての)がよく唄われていた。勿論、それは今も変わってはいないのだが。
 メロディへの乗せ方(譜割り)もほぼ理想通りである。文を妙な切り方で台無しにしない。
 アレンジも「ノイズを作ってる」と答えているのが理解できる奇異な音作りがされてる。所謂「癒し」っぽい曲(失礼)でももちろんだ。それが聴いていて飽きのこないところだ。音のひとつひとつに趣がある。
 歌声については唯一無二だと断言する。平沢を越えるヴォーカリストを私は知らない。
 音楽要素だけではない。その思考、行動(姿勢)もすべてが私にとって面白くてたまらないものだ。しかも、それを音楽に反映させてくるのがまたイイ。

 「お金を払ってまで欲しいと思ってくれなければ、やってる意味がない。違法コピーしてそれで満足してしまうようなものであれば、それは自分のせいだと。」
 これは私も同じ考えなんです。ネット上の違法同人サイトを容認するわけではないですが、少なくとも私はこれまで「止めてください」と連絡したことはないです。買わせるだけの魅力のある漫画でないなら仕方ない、と。

 書きたいことはまだまだ尽きませんがとりあえず今回はここまで。

 平沢と同時代に生きていることを感謝。
 平沢の音楽を素晴らしいと感じられることに感謝だ。